はじめてのバグ【ビットの海へ】
はじめてのバグ(実物版)
資料をほりかえしたら、はじめての「バグ」の写真が出てきたので、ネットにあった別ヴァージョンといっしょにアップすることにした。
写真にあるのは、1947年9月9日午後3時45分に、アメリカの海軍海表軍装センター(NWRC)に設置されていたハーヴァードMk(マーク2電気計算機の回路に障害をもたらした「バグ」と事件をしるした記録(ログ)である。


ハーヴァードMrk2は、厳密な意味では近代的なデジタル・コンピューターとは言いがたいが、第二次大戦中に各国で並行して開発され、デジタル・コンピューターの原型となった先進的な計算機のひとつで、ハーヴァード大学で開発され、実作された何台かのひとつが海軍に納品された。
9月9日、この計算機のパネルF70番リレー・スイッチが障害をおこした。原因は迷い込んだ虫(バグ)、つまり「蛾」(モス)で、これつまみだすことにより、計算機は復旧した。
このできごとは、マーク2の運用を担当していたグレース・ホッパーの証言により、世界で最初の本物の「バグ」として広く知られることとなった。
写真にある記録にははっきりと、「バグ」と記載されている。
グレース・ホッパーはプログラミング言語COBOLの開発者として知られる女性エンジニアで、海軍ではアドミラル、提督の地位にまでのぼりつめた人物である。
この証言が学術的な形で活字になったのは、1981年のことで、「コンピューティング歴史年報」7月号(3巻3号)に掲載された。
なお、ホッパーがこの障害の発生ならびに復旧の現場にいたとの風説も一部にみられるが、実際には彼女は現場にはいあわせてはおらず、その功績はあくまで、実物のバグにまつわる伝説をひろめたことにある。
ただし、ログの文面からもわかるように、電子回路の不良をあらわす「バグ」という言葉そのものは、これ以前から実在していた。『ウェブスター大辞典』などによれば、最古の用例はトーマス・エディスンのものとされ、実際、エディスンの伝記には邦訳版もふくめ、例外なく、開発中の試作マシンが不調のとき、エディスンが研究室の入り口にかぎをかけ、「さあ、南京虫をつぶしにかかろう」と告げるのが常だったと記している。「南京虫」すなわち「バグ」である。
『ハッカーズ大辞典』としてアスキー社から邦訳も出ている"The New Hacker's Dictionary"(Eric S. Raymond編、1991~)のネット版にあたる"The On-Line Hacker Jargon File"(4rd.ed.,1996)無料版(FTPfile;jarg400.txt)によれば、そもそもの起源は電信の時代、一本の通信線を多重に用いる四重電信システムにあるという。多重電信はエディスンが発明家として身をたてるいたった最初の通過点であり、彼の伝記など照合すると、どうやら、電信における通信障害、具体的には現在いうところの文字化けをさす用語であったらしい。
これが19世紀末には電気回路における障害をさすことばとして定着したのであるが、電話の普及以後あらわれた新しい用例、盗聴ならびに盗聴器をさす「バグ」と直接、関係しているかどうかは不明である。
盗聴器という意味の「バグ」の用例は、『オックスフォード英語辞典』によれば、1946年までさかのぼることができる。


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